【同盟弱体化】第1部 美辞麗句の陰で(1)「もはや日本は極ではない」(産経新聞)

 1月16日、米国の首都ワシントン市内のホワイトハウスから通りを隔てたウィラードホテルの会議場。日米関係に関する非公開のセミナーがあった。米側は民間の専門家に交じって国防次官補、ウォレス・グレグソンら国防総省で日本との交渉にあたっている責任者3人が顔をそろえた。グレグソンらは時折部屋を出入りしながらも、最後まで熱心に議論に耳を傾けた。だが、会場に鳩山内閣のメンバーの姿はなかった。招待状が出されたにもかかわらず参加しなかったのだ。

 参加者たちの予想に反し、米軍普天間飛行場移設問題で突っ込んだ議論はなかった。ある参加者は「欠席裁判を避ける気持ちが働いたのかもしれないが、普天間問題を詰めていくと鳩山内閣は日米同盟を守る気があるのかとなる。かえって事態の深刻さを浮き彫りにした」と振り返る。

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 昨年9月に首相に就いて以来、鳩山由紀夫は「日米同盟の深化」を強調するが、普天間問題では迷走が続く。「忍耐」してきた米政府もしびれを切らし始めた。

 「海兵隊が日本から完全に撤退すれば、機動性、実効性に影響が出る。地域の緊急時への米国の対応に遅れが生じることになる」

 駐日米大使、ジョン・ルースは1月29日の早稲田大学での講演でこう述べた。

 これを聞いた外務省幹部は「普天間問題が集約の方向に向かわない日本側を牽制(けんせい)したのだろう」と語る。東シナ海の海底ガス田問題で、中国側との交渉に関与したこの幹部は「強固な日米関係が背景にあったからこそ、中国も強気にはでなかった」と強調する。

 日中両国は平成20年6月に共同開発で合意した。しかし、ぎくしゃくし始めた日米関係を見透かすように、中国は東シナ海の「白樺」(中国名・春暁)ガス田で、天然ガスの掘削施設を完成させ、運用開始間近の状態となっている。

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 普天間移設に関する米側の交渉責任者だった元国防副次官、リチャード・ローレスは2月4日昼、ワシントン市内のレストランで訪米した前外務次官、谷内正太郎に言い切った。

 「日本では『日米中は正三角形だ』という議論があるようだが、もはや日本は米国にとって極ではない」

 ローレスはこう続けた。

 「このままだと日米同盟は50年前の安保条約改定当初に戻らざるをえない。日本の防衛に限定し米国が協力するだけの関係だ」

 谷内は深く考え込んだ。 「そうなれば米国は日本の危機に血と汗を流してくれるだろうか」

 次官当時、同盟強化のため、集団的自衛権に関する憲法解釈見直しに取り組んだ谷内だが、見直しは実現しなかった。

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 ■削られた「抑止力」

 1月29日、鳩山由紀夫の首相としての初の施政方針演説。「抑止力」という文字が“封印”された。原案では日米同盟に関する部分で「抑止力」が明記されたが、与党社民党が強い難色を示したため、削除したのだった。鳩山政権は「対等な日米同盟関係」を標榜(ひょうぼう)するものの、平成22年度予算案での日本の防衛費は約4兆7000億円で、国内総生産(GDP)比1%未満にすぎない。

 これに対して中国の国防費は2009年で約4729億元(約7兆1000億円)に達した。公表された国防費は主な支出区分を含んでおらず「実際には1・8〜2・5倍はある」(防衛省関係者)とされる。

 駐日米大使のルースは1月の講演で、「防衛費のGDP比は韓国が2・7%、中国は4・3%、米国は4%以上。隣国が世界で上位30以内に入るなかで、日本は150位だ」と述べ、暗に防衛費増額を求めた。

 では在日米軍に頼らず、防衛を自国だけで行うとどうなるか。防衛省幹部は「少なくともGDP比3%は必要ではないか」という。単純計算しても15兆円規模になる。だが、政府・与党内からは防衛費増額の声など出たことはない。

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 鳩山政権の迷走をよそに現場の自衛隊員たちは黙々と任務にあたっている。

 2月下旬のある早朝、薄曇りの空に向けて海上自衛隊の厚木航空基地(神奈川県綾瀬市、大和市)から1機のP3C哨戒機がブーンというプロペラ音を響かせながら飛び立った。日本海での監視活動にあたるためだった。ほぼ毎日みられる光景だ。

 1機が飛び立った後、基地には一瞬の静寂が訪れたが、まもなく他のP3Cも訓練飛行のため飛び立っていった。「不審船を確認したら、偵察飛行をしている1機だけでなく残りの機も直ちに監視活動に参加する」(海自幹部)という。

 訓練に参加した隊員は「大海の上を飛んでいるだけでは潜水艦を見つけるのはまず無理」と語る。事前情報が重要というわけだ。基地内の「ASWOC」(対潜水艦作戦センター)に集められた情報をもとに監視重点地域を決める。「米軍情報も当然入ってくる」(海自幹部)。

 厚木基地は海自と米海軍が共有している。米海軍は今夏までに第7艦隊の哨戒偵察航空団の司令部要員の一部を三沢基地(青森県三沢市)から厚木基地に移す方針だ。

 冷戦後にP3C部隊の縮小論もあったが、再び重要性が増している。弾道ミサイル、核実験を繰り返す北朝鮮、海軍力を増す中国から目が離せないためだ。イラク、アフガニスタン問題を抱える米軍も自衛隊の活動に期待を寄せている。

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 厚木の部隊と同様、毎日のように東シナ海を監視しているのが那覇航空基地のP3C部隊だ。隊員によると「潜水艦や艦船だけでなく、漁船の動きまで注視している」という。

 背景にあるのが2009年3月、南シナ海の公海で米軍の音響測定艦インペッカブルが漁船を含む中国側船舶に包囲された事件だ。中国船の船員らは木材を投げたほか、ソナーを取り外そうとするなど、妨害行為は激しかった。自衛隊の護衛艦にも同様の手段をとるかもしれない。

 中国は「近海防御戦略」を採用し、防御範囲を拡大している。中核となるのが日本列島から沖縄、台湾を結ぶ「第1列島線」と、小笠原諸島、グアムを結ぶ「第2列島線」だ。中国は第1列島線を越え、第2列島線に至る軍事力構築を目指し、潜水艦や大型艦艇を着々と配備している。

 特に潜水艦による活動は活発化しており、2006年10月には米空母キティホークが沖縄近海で中国の潜水艦の追尾を受けた。今後沿岸からさらに離れた地域での活動が増えることが予想されている。海自では東京、グアム、台湾を結ぶ三角形の海域を「TGT三角海域」と名付け、日本の平和と安定にとり「カギとなる海域」と位置づける。

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 日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増すなかで昨年12月、民主党幹事長、小沢一郎が総勢600人超を引き連れ訪中したことを「小沢氏のラブ・ツアー」と皮肉るローレスは、上司だった元国防長官ドナルド・ラムズフェルドがしばしば「日本が望む以上の同盟関係をわれわれが持つことはできない」と語っていたことを思いだすという。そしてローレスは痛感するのだった。いかに「同盟が脆弱(ぜいじゃく)か」と。

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 日米安保条約改定から50年。昨年11月に来日した米大統領、バラク・オバマに対し、鳩山は「建設的で未来志向の日米同盟を深めていきたい」と、「美辞麗句」を並べた。だが、インド洋からの海上自衛隊の撤退、普天間問題の混迷で日米同盟は変質しつつある。同盟のこれまでを振り返り、今後の課題を探る。(敬称略)

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